東京高等裁判所 昭和53年(く)210号 判決 1978年8月15日
被告人 川越均
主文
本件即時抗告を棄却する。
理由
本件即時抗告の趣意は、申立人ら連名提出の即時抗告申立書及び各即時抗告申立理由補充書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用し、これに対して次のとおり判断する。
本件即時抗告の理由の主たる部分は、原決定の違法・不当を主張し、これを前提として原決定が憲法三一条、三二条、三七条に反するというに帰するものであると解せられるところ、刑訴法一九条一項にいう「他の管轄裁判所」には同法六条、九条所定の関連事件について生ずる管轄を含むものと解せられるのであつて、同法一九条一項の決定にあたり、右のいわゆる関連管轄の有無を判断するために、受訴裁判所が事実の取調べを行なうことは法の予定しているところであるから、所論中、右一九条一項の解釈の誤りをいう部分及び予断排除の原則に関する主張部分は失当であり、また当審が行なつた事実の取調べの結果に徴すれば、本件について東京地方裁判所に管轄権を認め同裁判所に本件を移送するとした原審の措置に違法・不当のかどはない。従つて、違法・不当な原決定により被告人が著しく利益を害されている旨の主張は、これを刑訴法一九条三項にいう「著しく利益を害される場合」に当るか否かを論ずるまでもなく、前提を欠くもので採用の限りでない。
その余の所論は、東京地方裁判所で審判を受ける場合の弁護側の立証面に生ずる不利益、被告人が移監されることによつて生ずる不利益、いわゆる成田関係事件が千葉地方裁判所と東京地方裁判所で分割審理されることによつて生ずる不利益等等を主張するものであるが、かりにそれらをすべて刑訴法一九条三項所定の「利益を害される場合」に該当する事由の主張に当るとして、所論の主張を個々に考えても、また総合して考えてみても未だ同条項にいう「著しい不利益」に当るものとは認められないので、本件即時抗告は理由がない。
よつて、刑訴法四二六条一項により主文のとおり決定する。
(裁判官 時國康夫 三好清一 小泉祐康)